患者さんの前で、泣いたことある?



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患者さんの前なのに、泣けちゃった話

どっちが患者か、わからない

もう16年も前の話になります。
私ができそこない1年目だったときのことです。

実は、専門学校時代は実習も筆記テストも常に上位にいた私は、就職してからは“いかに自分ができない人間か”を突き付けられ、それを受け止められずにいました。
それでもあまりに毎日毎日帰りが22時を過ぎるし、先輩に怒られてばかりいるし・・・自分はなんにもできない人間なんだという風に思うようになりました。

でも、不思議と“退職”とか“離職”という言葉は、頭に浮かびませんでしたね。
打開策を考えるほど前向きにもなれませんでしたが、それでも毎日仕事優先の日々を送っていました。

ある日の午後、昼食も終わり、患者さんのもとを一周まわっていたときのことです。
その患者さんは小脳梗塞を起こした40代の男性で、会社経営をしていた人でした。
小脳ですから、平衡感覚の異常のため、嘔吐もしやすい状態にあります。

ちょうど私がその患者さんのもとへ行って、昼食の摂取量を控えたり、声をかけたりしていた時のことです。
急に患者さんが仰臥位のままで嘔吐しました。
まさに突然。
昼食後だったこともあり、食物残渣で病衣もシーツも顔もぐしゃぐしゃになりました。

グローブもガーグルベースンも、何も持っていなかった私はどうもできずに、顔だけ横に向けてナースコールを押しました。
「どうしました?」と先輩が出て、「患者さんが吐いてます。来てください。」と助けを呼びました。
こういう時には、助けを呼べばいいと思っていた私。

今にして思えば、横を向いて誤嚥しないようにだけしておけば、そう焦る必要もないわけです。
すでに病衣やシーツは汚れてしまっているのだから、あとできれいにするしかないのですし、バイタルの異常と誤嚥に注目すべきなんですよね。

でも、当時はそれができなかった。
当然のごとく先輩が1年目の自分を助けてくれるはずだ、だってこれは私が悪いわけじゃないんだし。
そう思って、何もやらず・できず・動かずにいました。

確かに先輩は、さくさくと対応をしてくれました。
しかし、それは患者さんの前だったからです。

ナースステーションに戻った私は、こっぴどくしかられました。
自分の担当なのに、何もしなかったから。

さすがの私も、日々言われ続けていたこともあり、ナースステーションで涙が出そうになりました。
でも私、先輩にこそ涙は見られたくないと思い、汚物処理室に行って患者さんの汚れたシーツの後始末を始めました。
そして一人になったら、余計に泣けてしまいました・・・。

それから患者さんのもとへももう一度行き、片づけの続きやバイタルをもう一度とったりしました。
するとその患者さんが、呂律のはっきりまわらないながらも、一生懸命「看護婦さん、ごめんね。」と言うわけです。

一度は汚物処理室で涙を抑えてきた私でしたが、患者さんに謝られて、また泣けてしまいました。
何も私できないし、何もしていないし、看護婦(当時はまだ看護師とは言わなかった)らしくもないのに・・・。

そうしたら、緩んでいた涙腺はまた涙をポロポロ出してくれます。
患者さんの前なのに。

すると患者さんは、また、「僕のせいで怒られちゃったの?」「大丈夫?」と言ってくれました。
彼は、私が先輩に怒られて泣いた後だということも、わかっていたのです。
そして「頑張れ。」と声をかけてくれました。

確かに私は、できそこない。
本当は、40代で脳梗塞を発症してしまった患者さんの方が、不安だって強いはず。
それなのに、その患者さんに励ましてもらうなんて。

でも、患者さんがわかってくれるんだ、応援してくれるんだって思ったら、少し元気が出て来ました。
先輩の機嫌を取ったり、先輩に怒られないように仕事をするのではなくて。
私は患者さんのために動いているんだって。

確かに、本当にそうできていたら、先輩が私に怒ったりはしないのでしょうけれど。
当時は患者さんよりも、先輩にびくびくする毎日だったのです。
でも、できそこないはできそこないのペースで頑張ろうと思えたのです。

その患者さんは、少ししてリハビリ病院に転院になりました。
まだ40代ですし、もう少しリハビリで回復してくれることを願いました。
彼は今、恐らく60歳。
会社をその後どうしたのか、今どうしているのかもわかりませんが。

ちょうど16年前と同じ時期になり、ふと思いだしてしまいました。
あれからすれば、私も大分成長したと、自分なりに思います。
図々しくもなりました。
でも、あの時に患者さんに救われたことは、いつまでもしっかり覚えておきたいと思いますね。



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