おひとり様の最期



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生き方も、逝きかたも、人それぞれ

一生愛人という立場で生きた女性

60代の女性Tさんが、下血を訴えて受診しました。
下血も多いし、Hbも下がっていて輸血が必要だったため、そのまま緊急入院して精密検査を受けることになりました。
当日のうちに造影CTを行い、翌日の朝から前処置を開始し、大腸内視鏡検査(CF)を行いました。

結果は・・・大腸癌。
それも、既に腹膜播種を起こしています。

Tさんは既に、完治を望めるレベルではありませんでした。
できるだけ予後を長くするための、姑息的な手術や抗癌剤治療を行うことになりました。

Tさんは、身寄りがいませんでした。
正確には、身内とは絶縁状態にありました。
そういった患者さんも珍しくありませんが、たいていは本人が精神疾患だったり、アルコール依存があったり、好き放題に生きて家族に迷惑をかけた人だったりするものです。

ところがTさんは、そのような人ではありません。
とてもおだやかで、品のある女性です。
口数は多くありませんが、いつも発する1言の後ろに10の意味があるように感じる、思慮深い人です。
そんな人が、なぜ親や兄弟と絶縁状態なのでしょうか?

実はTさんは、ずっと愛人の立場を通した人でした。
妻子のいる、ある会社の重役の男性とお付き合いをしていたそうです。
そして、30年以上愛人の立場でいたとか。
男性との間に子供はおらず、それでいて男性は正式に離婚してTさんと結婚することもありませんでした。

今は未婚の母だってバツイチの母だって、たくさんいます。
しかし、今よりも30年以上前の話ですから、風当たりは強かったことが想像できます。
Tさんが家族から絶縁状態にあるというのは、このような背景があったからなのです。

そして数年前、男性が亡くなりました。
子供もいないTさんは、独りになりました。
年金を受け取りながら、独りきりで暮らしていたのです。

そこへ、大量の下血。
はっきりといつからあったとは言いませんでしたが、1か月2か月という期間ではなかったようです。
おそらく、もっと前から何かしらの体の異変には、気づいていたのではないでしょうか。

その証拠に、Tさんは病理結果が出て主治医から正式に、病名は大腸癌であり腹膜播種を起こしている、予後はそう長くないと言われても、動揺することもなければ取り乱すこともありませんでした。

大腸癌だけではなく、卵巣と子宮も同時に全摘出する大手術を受けました。
腹腔ポートを増設して、そこからの抗癌剤投与も行いました。
イレウスになればその都度入院して、イレウス管を挿入しました。

やれるだけのことはやりましたが、最初に受診してきた日から2年が経過し、いよいよもう死期が近づいて来ました。
それでも、いつもTさんは1人で病院に来ていました。

最後の1か月は、1週間入院しては1~2日自宅に帰る、そんな生活でした。
なぜそうまでして帰るのか?
Tさんは、独りで静かに生きてきた人なのです。
だから、できるだけ自宅で静かにいたかったのです。
そして、少しずつ身辺整理をしていったのです。

最後の入院の時に、ようやくお姉さんの連絡先を病院に教えてくれました。
県外在住のお姉さんに、主治医は電話をかけました。
何年も連絡をとっていなかったのは知っているが、もう本当にいよいよだから、病院に来て欲しいと。

それでもお姉さんは、すぐにはやって来ませんでした。
医師の連絡から2日経って、病室に訪れました。
そして、Tさん姉妹は何年なのか、何十年ぶりなのかの対面を果たしました。

おそらくそこで、Tさんは自分が亡くなったあとの後始末について伝えたことと思います。
そして、本当は献体登録していたTさんですが、最終的には献体には出さず、お姉さんが遺体を引き取りました。

こちらのように、孫まで含めた大勢の家族に囲まれて逝く人もいれば、Tさんのようにひっそりと逝く人もいます。
お姉さんは病状が心配とか会いたいというのではなく、義務的に死後の処理のためにやってきたに過ぎません。

家族形態が多様化している現代では、「おひとりさま」が病気に罹ることも増えてきます。
バツイチママの私としても、他人事とは思えない症例でした。

生き方も、逝きかたも、人の数だけあるのですね。



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