セデーション開始までの家族の葛藤



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終末期を迎えた患者家族にのしかかる、セデーションという大きな選択

ピンピンコロリ・・・とはいかない現実

現代は4人に1人が癌に罹ると言われる時代です。
まあこの数字には、内視鏡下で切除できたものの、病理としては癌という人も含んでの数ですが。

癌にはさまざまな癌があります。
最近は芸能人も、病気を公表していますね。
一番新しい話題としては、小林麻央さんが乳癌であることを公表し、大きなニュースになりました。

どの癌だって、罹りたくはありません。
そして最後に、痛みや苦しみで生き地獄を味わっていくのは、自分も嫌だし、仮に家族がその状態になったとしたら、見ているのも辛いでしょう。

肺癌ターミナルを迎えた患者さんの家族は、葛藤します。
痛みも辛いのですが、呼吸苦が辛いのです。
この苦しみを、水面を見ながら這いあがれずにおぼれている感じ・・・そう表現した患者さんがいました。

本人はもう、楽にしてくれと言っている。
でも、一度セデーションをかけたらもう話をすることもできず、早ければ数時間、長くても数日で亡くなってしまう。

それがわかっていて、セデーションには踏み切れない。
1日でも長く生きていて欲しい。
でも、もう身のおきどころのない苦痛を楽にしてあげたい。

その葛藤は、半端じゃありません。
命をかけた問題ですから。
そして、二度と後戻りすることはできないのですから。

「ピンピンコロリと逝きたいよ」と、よく高齢者は言います。
でも、今の時代高齢者も亡くなるときにはポックリとはいかないもの。
癌でこてこてに治療をしたあとだったりするのです。
医療が進んだからこそ、ピンピンコロリはほとんどない、“理想”なのです。

最後の最後で、セデーションに同意した妻

50代の男性が、肺癌で入院していたときのことです。
肺癌の中でも小細胞癌というのは進行が早く、その患者さんも発見されたときには既に進行しており、すでに治癒が望めない状態でした。
でも、子供はまだ高校生と大学生です。

重症個室に移ってから数日で、患者さんはもう身のおきどころのないくらいの呼吸苦で苦しむようになりました。
身体は辛いけれど、寝ることもできない。
酸素マスクを付けて、オーバーテーブルに枕を二つ重ねて突っ伏したり、顏を上げたり・・・。

どうにかしてくれというナースコールも、何度もありました。
その状態で2日目に入った日の午後、主治医はセデーションの話をしました。
本人はもう、今すぐにでも楽にしてくれと発狂寸前でした。
その意思表示をするにも、目は半分上転し、息も絶え絶えというのはまさにこのような状態のことを言うのでしょう。

「もう、いい加減にしてくれ・・・」
患者さんは途切れ途切れの意識の中で言いました。
でも奥さんは、すぐにわかりましたとも、お願いしますとも言えず、泣き出してしまいました。

意識はあると言っても、かなり限界まで来てました。
セデーションをかけたらもうすぐに意識はなくなり、逝ってしまうだろう・・・誰もが想像できました。
1時間ほどたってから、奥さんがナースステーションにやってきました。

「今、子供達を呼んでいます。
二人が着いて、話ができたら眠らせてください・・・。」
高校生の娘さんは1時間もせずに到着しました。
そして、大学生の息子さんが到着したのは、もう日勤も終わり・・・という頃。

申し送りを始めるかどうかの時間になり、セデーションを開始しました。
予想通り、患者さんはすぐに眠り、意識はなくなりました。
ようやく、穏やかな顔を見ることができました。

そしてそのまま、準夜帯のうちに亡くなりました。
私が深夜で出勤したときには既に、部屋はカバーを外した寝具がベッドに乗っているだけでした。

おそらくそのままの状態でも、患者さんはあと数日もつかどうかというところだったでしょう。
でも、奥さんの勇気ある決断のおかげで、家族は最後に苦悶表情ではなく、安らかな顔を見て、手を握りながら見送ることができたのです。