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肝臓に写っているのはなんと・・・門脈ガス!!

呼吸状態の悪化した92歳の身に、何が起こった?

脳梗塞後遺症のためリハビリ目的で入院していた女性の呼吸状態が、ある日の午後、悪化しました。
昼食は少しむせこみながらも、全量摂取していたとのことです。
その後14時にベッドに行くと、既に肩で息をしている状態で、呼吸数は55回。
これはおかしいですね・・・。

ただし、本人に自覚症状はありません。
明らかに苦しそうなのに、苦しくないと言います。
そして段々血圧も下がってきて、140mmHgあった血圧が100㎜Hgをきりました。

主治医の指示で、胸から骨盤までザーッとCTを撮ることにしました。
検査を進めているうちに血圧はどんどん下がり、80mmHgとなりました。
意識は混濁していますが、痛みも呼吸困難も訴えません。
この患者さんに、何が起こったのでしょうか?

さて、CTの画像を観てビックリ!!
なんと、肝臓の中にモヤモヤしたものが見えるではないですか。
なんだろう?この枝みたいな、心臓の冠動脈みたいなものは?
この正体は、“門脈ガス”だったのです。

15年以上看護師をしていて、初めて聞きました。
小腸ガスならわかりますよ、イレウスになると写るしましまの部分ね・・・って。
でも、これは門脈ガスです。

画像を観ると、ニボーも確かにあります。
しかし、明らかに肝臓にモヤモヤと枝状のものが写り込んでいるのです。

患者さんの家族への説明を聞き、私も理解に努めました。
何らかの理由で腐った腸から発生した腸管ガスが血管に移行して上がっていき、門脈を通って肝臓に移り込んでしまう・・・それが、門脈ガスの発生する理由。

原因として一番多いのが腸管壊死。
他にも胃癌や胃潰瘍の穿孔、炎症性腸疾患といった理由で起こることもあります。
門脈ガスを伴う腸管虚血は予後が悪く、死亡率は70-90%と言われています。

画像上、肝臓の全体にこの門脈ガスが広がっており、外科的手術しか治療はないとは言え、手術できる範囲を超えています。
血圧も低下している上に呼吸状態も悪く、リザーバーマスク10LにしてようやくSpO2が90%にのるくらいです。

おまけにこの患者さんは、92歳という高齢者です。
糖尿病に脳梗塞を併発しています。
更に極め付けは、一般に手術適応と言われる50㎜を超える、63㎜の大動脈瘤もあります。
(大動脈瘤については手術をせず、経過観察だけを希望していました。)

家族は、孫も含めて介護の指導を日々病棟看護師から受けており、自宅に連れて帰るつもりでいました。
そんなおばあちゃんがいきなり、腸管壊死によって命が危ないと言う・・・。
家族は手術して助けてもらえないかと聞きましたが、すでに肝臓の侵されている範囲が広く、呼吸状態も悪い。
恐らく、麻酔をかけたらそのまま手術室で亡くなるだろう、と説明しました。

外科の医師もダメもとで開きにいくか・・・と言いましたが、やはり年齢も考え、あれこれ手を加えたあげくに手術台で亡くなるよりも、家族に見守られながら逝く方がいいのではないかということになりました。
実際、仮に若かったとしても、小腸壊死が広範囲に及んで肝臓全域が侵されていますから、手術をしても助かる可能性は限りなくゼロに近かったでしょう。

高齢である上に脳梗塞と糖尿病という基礎疾患が加わり、本人は最後まで痛みや苦痛というものを訴えませんでした。
普通ならバイタルサインの変化が現れる2時間前に、昼食を全量摂取するなんて考えられません。
猛烈な激痛があったはずです。

高齢者は、本当に典型的な症状を示さないのだな・・・と、CT画像をみてつくづく思いました。
こんな状態が、2時間でなるとは考えにくく、およそ数日をかけて起こってきたのではないかと考えられます。
それでも痛みは全く訴えなかったのです。

痛みを訴えられても、麻薬なんて使おうものなら、一気に血圧が下がることが想像できます。
結局、患者さんの意識は徐々に遠のいていき、セデーションをかけることもなくその日のうちに亡くなりました。

どこにいても、適切な看護と観察ができるだろうか?

今回の症例では、門脈ガスという言葉だけでなく、2つのことを考えさせられました。
・リハビリ目的の回復期入院でも、別の病気を発症することはあり得る。
・高齢者の看護は、自覚症状だけにとらわれてはいけない。

どこで働こうと、看護師として働く限り、急変はありえることなのです。
私は外来所属なので、患者家族へのムンテラを聞いてカルテを読んだだけ。
実際の看護には携わってはいないので、事実を全て把握しているわけではありません。

この患者さんが昼に食事を摂取していたとき、本当におかしいことはなかったのか?
いつもならむせない患者さんがむせたという時点で、何かしらのサインを発していなかったのか?
そう思ってしまうのです。

いきなり55回の呼吸数ということにはならないでしょう。
気づいた時が、既にその状態だったというだけで。

この患者さんは、CT撮影後にそのままリハビリ病棟から急性期病棟へ転棟していました。
そして、カルテを見る限りでは、酸素を始めとした全ての処置が、急性期病棟移動後に始まっているのです。
それまでの間、リハビリ病棟の看護師は何をどう観察し、どう関わっていたのでしょうか・・・?

実際患者さんに会ってもいないし、病棟勤務もしていない私ですが。
もし同じ場に立ち合っていたら、私は何ができただろう?
私は患者さんの異変に気付くことができただろうか?
そんなことも、心配になってしまったのでした・・・。