お迎えを独りで待つ孤独



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ひっそり死ぬのを待っています

救急車で搬送されたのに「ほっといて」

96歳と超高齢の女性のSさんが、意識レベル低下で救急搬送されました。
私の住む地域は高齢者が非常に多く、こちらで紹介した患者さんもそうですが、90歳を超えても独り暮らしをしている人が大勢います。

とくに女性の場合は、独りになってもなんとかやっていけるものなんですね。
男性の場合は、奥さんに先立たれるとまず食事に困りますから、独り暮らしが成り立たないんです。

Sさんは、デイサービスから帰宅したあとで気分が悪くなったようです。
ADLの自立していて認知症のない人の場合、年齢は96歳であっても意外に介護度は低いんですね。
そうなると、介護サービスもそうそうは使えません。

そこでSさんは、入浴サービスを受けるために週2回、午前中だけデイサービスへ通っていました。
近隣の人達もその生活を知っているので、デイから帰ったはずの午後に様子を見に行ったそうです。

玄関から声をかけても、声がしません。
物音もしません。
でもカギが開いていますし、電気もついている様子。
そこで近所の方が家の中まで入ってみると、意識のない状態で倒れているSさんを発見したのです。

救急搬送されてすぐに入院病棟にあがったSさん。
(私の勤務先では、検査結果が出る前に帰宅できそうになければ、早々に入院させてしまいます。)
バイタルをとったり、採血とルート確保・・・なんてしていたら、徐々にSさんの反応がよくなりました。

最初は病院にいることがわからなかったようですが、次第に入院病棟に自分がいて、点滴や検査を受けているという状況が理解できるようになって来ました。
するとSさん、なんて言ったと思いますか?

「ほっといてちょうだい。」
え・・・??? ( ゚Д゚)
せっかく近所の人が気を使って様子をのぞきに行ってくれたし、救急車も呼んでくれたのに。

「お迎え」が来るのを、待っている

Sさんには子供さんが何人かいたのですが、不幸にも皆先立たれてしまいました。
97歳の子供世代というと、60代・70代でしょうから、おかしくはありません。

そうして独りきりになってしまったSさん。
入院をしていたくもないし、もうあれやこれや治療をしてまで、長生きしたくないというのです。
だから、「ほっといてちょうだい」だったのです。

偏屈でもなんでもなく、思い出の我が家でひっそりとお迎えが来るのを待っている・・・。
だから、自分に何があってもそれがお迎えの時だから、わざわざ救急車なんて呼んで大騒ぎしてくれるな、助けてくれるなと。

Sさんの気持ちも、わかります。
長生きすればいいってもんじゃないんですよね。
楽しく、家族に囲まれて長生きするのなら幸せな人生です。
しかし、独りぼっちでただただ長生きするというのは、辛いものでしょう。

Sさんのように戦争を経験した世代は、昔から粗食で来た人が多いのです。
それでいて身体は丈夫。
だからSさんは、糖尿病も高脂血症も高血圧もなく、ただただ高齢というだけでなんの病気もない。
だから、子供達よりも長生きできたのです。

「ほっといてちょうだい」に込められた意味を考えると、せつなくなってしまった症例でした。
私の最期は、誰とどうしているのだろう・・・?
そんなことも、ぼんやりと考えてしまいました。