ただの腰痛が、大動脈解離だった!!



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たかが腰痛とあなどるなかれ! “たかが”から緊急事態へ発展!?

腰痛には、緊急性がない!?

皆さんが腰痛の患者さんに対応するときは、ほぼ緊急性はないものとして接すると思います。
それは、腰痛の原因が下のような疾患だと予想しているからではないでしょうか。

腰痛といえば・・・

・一般的に知られる腰痛症
・椎間板ヘルニア
・坐骨神経痛
・圧迫骨折
・尿管結石
・腎結石

しかし、たかが腰痛と思って対応していると、その後でとんでもないことになりかねません。
なぜかというと、患者さんによって痛みの感じ方はまちまちですし、糖尿病や脳血管障害による神経障害がある場合、言葉での表現がうまくできていないことがあるからです。

私が実際に遭遇した、「腰が痛くてさぁ・・・」の患者が、緊急事態に発展した症例をご紹介したいと思います。

痛みの移動する腰痛、その正体は?

心臓外科の外来に、数年前に弁膜症のオペをした患者さんが、定期受診に訪れました。予約の時間通りの来院でしたし、特に変わったことは、なさそうです。
その患者Aさんは、診察室でこのように言いました。
「先生、なんか今日はちょっと腰が痛くてさぁ。別に歩けなくはないけど、整形かかった方がいいかなあ?」

総合病院では、外来の一般診察はほとんど午前で終了です。午後の外来は専門外来や予約の患者にしぼられるからです。
また別の日にして、と伝えなくちゃ・・・と私はぼんやりと考えながら成行を見守っていました。
先生が「どんなふうに痛むの?」と聞くと、
「うーんとさ、腰っていうか、背中っていうかさ、痛む場所がだんだん変わって来てて、よくわかんないんだよ。痛み止め使うほどじゃないけどな。」

そこで先生がCTをオーダー。放射線科へ案内しました。
その患者さんで最後だったこともあり、先生もCT室に行きました。
そして10分もしないうちに先生から外来へ連絡があり、造影CTをすることになりました。
何が合ったのかわからないまま、私もとりあえずCT室に向かいました。

でも、時間は既に17時半を過ぎています。そんな時間にわざわざ造影CTまで撮るって・・・先生は何を疑っているのだろうと思いながら、撮影するところを眺めていました。
そしてある画像を見たところで先生が言いました。
「解離だ!このままICU!!」

へっ???
頭の中が真っ白。
(解離って、大動脈解離のこと?)

その後、先生が直接ICUに患者を送っていく(フットワークのよい先生でしたね)というので、私は入院準備をすることに。
といっても、ただの腰痛が解離だなんて思っていたから、思考をまず緊急モードに切り替えなくてはなりません。
そして、いつもの入院と違って定時を過ぎているため誰もいません。自分で動くしかありません。

ICU側は、何も持たずに入院してくるなんて怒るに決まってるし、でも家族にも連絡しなくちゃだし、時間外だからカルテとリストバンドは救急外来の受付に頼んで・・・。
必死で頭の中で段取りをして、なんとかICUにも先生にも「遅い!!」と怒られずに済む程度には、用意することができました。

患者さんは絶対安静を言い渡され、私以上にこの急展開についていけません。
「ちょっくら家に電話させて-。」
「荷物とって来たいんだけどなー。」
ICUの隔離ベッドに寝かされても、まだ呑気なことを言ってました・・・。

Aさんの訴えから、大動脈解離が予測できるか?

さてここで、大動脈解離という病態について少し考えてみたいと思います。
これは、大動脈内膜に亀裂を生じ、亀裂から血液がどんどん送り込まれることで、中膜が内と外の2層にべりべりと割けてしまうものです。
突然胸背部の激痛から始まり、未治療の場合、発症して間もなく死亡します。救急車を要請しても、病院到着に間にあわないこともあります。

程度やその割け具合によって型があり、治療方法も異なります。緊急手術が適応になることもあります。
発症から48時間以内は超急性期とされ、絶対安静。ただ寝ているだけでは足りませんから、鎮静までかけてほんとうにガッツリ安静にするのです。

この大動脈解離の病態を、先ほどのAさんにあてはめてみましょう。
Aさんは、このように訴えていましたね。
「なんか今日はちょっと腰が痛くてさぁ。」
「うーんとさ、腰っていうか、背中っていうかさ、痛む場所がだんだん変わって来てて、よくわかんないんだよ。」

さてここで、Aさんの発言の中にポイントがあります。
➀今日から痛くなった
➁部位は腰もしくは背中
➂痛む場所が移動している(変化している)

この3点だけとれば、確かにちょっとひっかかります。とくに➂の痛む場所が移動しているというのが、特に気になりますね。
なぜ痛む場所が変わっていたのでしょうか?それがまさに、血管が割けて移動していった=それだけ解離範囲が伸びたことを意味しています。

患者さんの訴えには、「別に歩けなくはないけど」というものもありましたし、本人も苦しい感じもなく歩いて外来に来ました。
だから解離かも?とはピピッと来ませんでしたが・・・先生はおそらく➁と➂から、整形分野の腰痛ではないのかもしれないと判断したのでしょう。しかし、いきなり造影剤を使うのも侵襲が高いので、まずは単純CTとしたのです。
CTの撮影方法は、腰椎に特化せずに胸背部全体がわかるようにしたかった。そこで何かあったら、そのまま追加指示を出したかった。
だから、放射線技師に指示して撮らせるために自分がCT室に行ったのでしょう(暇だったからではなかったんですね)。

大動脈解離といえば、まあ通常は歩いてひょこひょこ外来には来ません。ましてや、定期通院の時間を待って、診察のついでにちょこっと言うなんてことはありません。
Aさん本人は整形にかかるつもりでいましたから、先生に相談せずに帰宅し、翌日の整形受診を待っていたら・・・命はなかったかもしれません。

この症例は本当に珍しいものですが、患者さんの訴えの中からキーワードとなる言葉にピンとくること、どんな症状であっても緊急事態の隠れていることを、常に頭に置いておくべきだということを学びましたね。
あの時は、育児休暇から復帰してすぐのことでしたが、「ああ、現場にいるだけで勉強になるんだなぁ~。」と思ったものです。

あなたもこんなヒヤッと経験ありますか?
いつもヒヤヒヤしてばかりでは、いつか大きな事故へ発展してしまいますが、このようなヒヤッとした体験から、どれだけ日々の看護に広げて活かすか・・・そこで看護師個人の成長は変わるのではないでしょうか。