飲酒が引き起す、致死的脱水



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死に至る酒

グループホームから救急搬送された男性の不思議

ある日の午後、市内のグループホームから外線が入りました。
60代男性の意識レベルが低下して、失禁状態で部屋に倒れていた。
救急車を要請するから受け入れをお願いしたい、とのことでした。

20分後、救急隊が到着しました。
ひどい尿臭で、ズボンだけでなく上の服までびしょ濡れです。

失禁してびしょ濡れのまま、ずっと放置されていたようです。
グループホームの職員が言うには、朝から倒れていたと。
それを裏付けるように、皮膚は発赤と水疱がいたるところにできていました。

何がこの患者さんに起こっているのでしょうか?
病態生理を考えるべきなのでしょうけれど、その前に気になる点がいくつかありました。

まず1つ目。
そのグループホームは、ADLが自立している高齢者の入るところです。
そして、平均年齢が80歳を超える入居者の中で、なぜ60代の男性がいるのでしょうか?

そして2つ目。
なぜグループホームに入居しているのに、ずっと失禁状態で倒れて放置されていたのでしょうか?

最後に3つ目。
2つ目にもつながることですが、なぜ朝から倒れていたのを発見したのに、午後(搬送されたのは既に15時でした)になって病院へ連れて来たのでしょうか?

意識レベル低下の原因は?

上に挙げた3つの不思議。
そして、今患者さんに起こっていること。
実は、全てつながっていました。

原因は、飲酒です。

グループホーム職員からの話でわかったことですが、この男性、生活がかなり荒れていて、昼間からお酒を呑む人でした。
それで奥さんと子供が離れていってしまった。
しかし自分一人で生活する生活能力すらも欠けるため、昔勤めていた会社の社長さんがみかねて保証人になって、そのグループホームに入れてくれたのです。

グループホームでは食事の支度とお風呂は用意しますが、食べる・入るは本人の自由。
買い物へ行くのも自由ですから、お酒を購入することも可能。
ですから、ホームに入ったあとも昼間から酒を呑む生活は変わらなかったのです。

お酒とつまみでいいにして、食事を抜くこともしばしば。
こんな具合ですから、食事の時間に食堂へ降りて来なくても、誰も心配してくれないのです。
せっかくグループホームに入ったのに。

結局、この男性のレベル低下の原因は、アルコールによる脱水でした。
アルコールは分解の過程で水分を必要とします。
そこで、血管から水分が抜かれてしまい、脱水状態になったのです。

酩酊してそのまま眠ってしまい、水分を摂らなかったので、脱水はますます進行。
脱水症がひどくなってしまえば、自分で起き上がることもできません。
そして状態は更に悪化、トイレに行くこともできず、意識レベルも低下して、失禁状態で自室に倒れ込んでいたのです。

さすがに前々日の夜から5食も欠食していたので、施設職員が様子を朝見に行きました。
その時点で服は尿まみれ。
でも本人がかろうじて「病院はいかない、大丈夫だ」と言ったため、もう少し放っておくことにしたのだそうです。
昼食後、既に会話もできなくなっていたため、さすがに施設職員が当院に連絡してきたというわけです。

とりあえずいろいろな可能性を考えなくてはなりませんから、まずはルート確保と採血をしました。
・・・その結果にビックリ!!

この男性の採血データ、私は初めて見ました。
Ht(ヘマトクリット)が、なんと57%!!
もちろんパニック値として、検査科も連絡してきました。

ヘマトクリットは、血液中の赤血球の割合を示すもの。
貧血の検査と思われがちですが、水分量が少なければ見かけ上赤血球が増えたことになります。
正常値は50未満ですから、この患者さんはかなりオーバーしていますね。

おまけに、あまりにも脱水が高度で、血液中の血漿が少なく血球成分ばかり。
血漿というのは、血液を遠心分離にかけてできた上澄み液。
その上澄みが、生化のスピッツ2本だして、ほんの2ml程度しかなかったのです。

全開で生食を落とし、念のため頭のCTで出血の有無も確認してから男性は入院となりました。
私達病院側の抱いた“おかしい”は、病態生理に結び付いていたのです。
全ては飲酒に始まり、飲酒のせいで起こったレベル低&緊急入院。

レベル低下!!
こうなると、緊急度の高い疾患から私達は考えていきますよね。
脳出血、クモ膜下出血、解離・・・などなど。

でも、たかがお酒がここまでの脱水を引き起すことがあるのです。
この患者さん、危うくそのまま亡くなってしまうところでした。
やはり対応は若干遅かったにせよ、グループホームに入っていてよかったですね・・・。



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