「何か」に気づけるか?



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ただの嘔吐下痢症ではない、何かがおかしい。どこがおかしい?

嘔吐・ふらつきは、緊急事態?

80代の女性が、息子に連れられて外来にやってきました。
といっても、まだようやく受付を始めた時間(8:00)で、診察開始までまだ1時間あります。

とりあえず患者さんの症状を聞いてみると、嘔吐とふらつきだと言います。
ちょうどこの時期、外来は感染性胃腸炎による嘔吐下痢を訴える患者さんが多く、中でもノロウイルスの場合は感染の拡大が大きくなりやすことから、隔離室へ案内しました。

この患者さんは、80歳を超えていますがしっかりした受け答えをします。
昨日まで子供・孫の分の洗濯から食事の世話まで、全てこなしていたというのです。
更に、当院の受診歴は先代の院長からですが、時間外で飛び込んだのは初めてだと言います。

うーん・・・ただごとではないのかもしれないけれど、何分症状が嘔吐とふらつきです。
嘔吐をして脱水症状に陥っていれば、ふらつくのも無理はありません。

しかし患者さんはどうも座っているのが辛そうなので、隔離室ベッドへ寝かし、バイタルサインをとることにしました。

まず血圧は上が100代、そして脈が50でした。
少し少ないかと思い、私は脈を触れて実測しましたが、同じ位。とくにリズムに異常はみられませんでした。

ところが、家で冷や汗をかいたという患者さん、体温が34度代にしかでません。
確かに、冷や汗はひいたようですが、皮膚はまだ冷たかったのです。
これはやっぱり普通じゃない・・・。

そのため、時間外ですが臨時に医師を呼んで診察・指示を受けることに。
ただ、その診察した医師からも採血と腹部単純レントゲンしか検査オーダーは出ませんでした。
そしてレントゲン検査に行くと、そこでもふらつきと嘔吐がみられました。
どうも呼吸も荒いし・・・。

撮影後に戻った隔離室でもう一度血圧を測定。
血圧に変動はありませんでしたが、自動血圧計に表示される脈拍数が39。
さらにSpO2は93%、パルスオキシメーターに表示される脈拍数も39。
これって・・・?

私は指示になかった心電図をすぐにとりました。
とってビックリ!!
完全房室ブロックーッ!!

嘔吐下痢症なんてとんでもない、完全房室ブロックによる冷感・嘔吐・ふらつきだったのです。
このあと外来がバタバタしたのは、言うまでもありません・・・。

おかしい?と思えるのも技術のうち

心電計が示す表示も37~39のHRで、これは徐脈の症状だとそこで初めて気づきました。
そして、心電計から出て来る心電図がどうも不自然。
P→QRS→Tという流れではないんですね。
でも、それぞれのP波とQRS波の間隔は等しい・・・。

そこで初めて、私は完全房室ブロックだと気づいたのです。
本当だよね!?と、私は自分の目を疑いました。
正直なところ、今まで参考書やACLSの問題でしか見たことがなかったのです。
間違いないよね!?自動解析でも完全房室ブロックて出てるし!

そこへ、低体温のために用意するよう届いていた電気毛布が届きました。
しかし、低体温性ショックではなく、この問題はあきらかに完全房室ブロックにあります。
私は持って来てくれたスタッフに、すぐに「完全房室ブロックだから、ストレッチャーで救急室へ。酸素をマスク5Lで開始して。」と伝えました。

ただ頼まれて電気毛布を持って来たスタッフはびっくりして、動けません。
「誰か手伝い呼んで、すぐ動いて!」
ともう一声かけなければなりませんでした。

そして私は外で待っている息子さんへ、どうも徐脈がひどいせいで起こっている症状であること、部屋を移動することを伝えました。
次に、医師へ症状と呼吸状態が悪化していること、そして心電図をとったら高度徐脈で、完全房室ブロックであることを伝えました。

非常勤医師しか循環器のいない当院では、ペースメーカーチェックはしていますが、ペースメーカーの埋め込みは対応していません。
そこで、近隣の病院へ紹介することになりました。

この症例から、いくらこの時期感染性胃腸炎が流行っているからといって、思い込みはいけない、ということを学びました。

この患者さん、私にいくつかのヒントを与えてくれていました。
・いつも元気な80代が、歩けなくなるくらいのふらつきを感じた
・冷汗、低体温
・息苦しそうに眉間にしわを寄せて、肩で呼吸をし始めた
・脈拍が最初のバイタルチェックの時から遅い

本来、脱水があるなら徐脈ではなくて頻脈のはず。
それが冷汗を伴う低体温、呼吸苦。
レントゲンに行く前に、心電図をとろうと気づけなかったなぁ・・・。

とはいえ、最初の情報から徐脈であることはわからなかったし、隔離室へ案内したこと自体は間違ってはいないと思います。
それに、そのときに完全房室ブロックであることに気づけたのは、私が何度も「どうもおかしい。でも、どこがおかしい?」と自問していたから。

これ、ある意味で私に一つの自信をくれたんです。
最短時間での診断ではなかったかもしれないけれど、「気づくことができた」のです。
私がただ指示のルート確保と採血・腹部単純レントゲンだけをとっていたら、心電図をとろうとは思わなかった。

でも、どこかおかしい・・・と観察し続け、いろいろ考えを巡らせたから「循環の問題か?」と気づけたのです。
私は、そこに気づくことができた観察力とアセスメント能力があることに、ホッとしました。
あのまま気づけずに、診察の開始をまち、採血結果が出るまで放置するなんてことがなくてよかったぁって。

そして何よりも、そのまますぐに近隣の病院でペースメーカー埋め込み術を受ける段取りが取れてよかった。
おそらく、ペースメーカーが入れば大丈夫でしょう。

おかしい、おかしい。
どこがおかしい?
こう自分に問いかけ、情報を得る。
これも立派な、看護技術ですね。