最期はあっという間・・・



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人間の最期って、こんなに呆気ないものなのか?

大腸癌に脳梗塞を乗り越えてきたのに

土曜の外来勤務がもう終わる・・・今日は平和だったなぁなんて思っていた、ある日。
勤務する病院の、系列施設から連絡が入りました。
入所していたSさんが昼食中に誤嚥して、意識がないと。

それまで「あと30分で終わりだね~」なんてのんびり構えていた雰囲気が、急にピリッとなりました。
モニターにルート確保セット、それから挿管準備もして、入院先の病棟をキープして到着を待ちました。

施設のスタッフと到着したSさん。
意識がないし、呼吸もしていません。
そして、頸動脈も触れません。
そう、もう既に亡くなっていたのです。

しかし、家族はまだ病院に到着していません。
施設からの連絡は、「状態が良くないので病院に連れて行きます」というだけなので、亡くなっているといは伝えていません。
電話で既に亡くなっていますとも言えませんから、どのくらい緊急性があるか奥さんに伝えられたのかは不明。
のんびりくるかもしれないな・・・と思っていました。

Sさんは、もしものときにはDNRという意向を奥さんから聞いており、書面にも残してあることがわかりました。
ですから、一応酸素とモニターは付けていましたけれど、胸骨圧迫や挿管をするといった積極的介入はせず、ただ奥さんを待っていました。

私はSさんと関わったことがかなりあって、今の職場に転職してきてから5年の付き合いがありました。
就職して数か月後、Sさんに大腸癌が見つかったとき、オペ前に外来で担当していたのは私でした。

当時はADLも自立していたし、独りで病院に通っていました。
ところが、大腸癌の術後数か月で、なんと脳梗塞を発症してしまったのです。
せっかく大腸癌の治療がうまくいったのに・・・脳梗塞によって、Sさんは寝たきりとなってしまったのです。

その後、私は外科にあまり携わらなくなったのですが、今度はSさんが脳梗塞後遺症による神経因性膀胱で、泌尿器科に通うようになりました。
膀胱瘻を増設していたので、1か月に1度の交換で、毎月顔を合わせていました。
その頃泌尿器をよく担当するようになっていたので、またSさんとのお付き合いが始まりました。

Sさんは脳梗塞の後遺症で、嚥下状態が悪くなっていきました。
しょっちゅう肺炎を繰り返し、入院していました。
ここ1年は、膀胱瘻カテーテルの交換で会うときの2回に1回は入院中・・・という状態。

そんなSさんが、窒息で亡くなってしまったのです。
大腸癌も、脳梗塞も乗り越えてきたのに・・・。

あっという間だったけれど、苦しみも最短

Sさんが病院に到着してから30分もたたず、奥さんが到着しました。
「実は既に亡くなっています。こういった時には積極的な治療はしないという方針でしたので、奥さんをお待ちしていました。今死亡確認を致します。」
医師がそう奥さんに告げると、奥さんは目をパチパチさせて
「え?もう亡くなってるの?あらまぁ・・・。」

泣くもわめくもなく、ただ茫然としている様子の奥さん。
こちらから帰りの車の手配をどうしましょうかと声をかけるまで、ただ茫然としていました。
Sさんに声をかけるでもなく、ただ立ちつくしていたのです。

そして、葬儀屋はどこを呼ぶかなんて話をしているうちに状況が飲み込めてきたようで、ようやく「お父さん、お疲れ様」と声をかけたのです。

今まで奥さんは、熱が出るたびに施設から呼ばれて病院に駆けつけ、入院の手続きをとっていました。
そして落ち着くとまた呼ばれて施設に戻る・・・。
何度繰り返したかしれません。

しかし、最後は本当にあっけなかった。
前日までは自分で食事を食べていたものの、その日は介助を要する状態だったため、介護職員が食介をしていたそうです。
そしてむせてしまい看護師を呼び、すぐに吸引をして大量の食物を引いたそうです。
その時にはまだ自発呼吸もあり、吸引の刺激によって咳嗽もしていたというのですが、酸素投与しながら病院に向かう途中で心肺停止状態になったそうです。

病院到着は、窒息してからまだ25分。
施設が病院のすぐ近くで、職員がすぐに搬送したために本当にすぐに病院に着いたのです。
今まで大きな病気を乗り越え、何度も肺炎で入退院をしていたSさんですが、最後はたった30分の間の出来事でした。

奥さんが茫然としてしまうのも、わかります。
私でさえも、なんてあっけなかったんだろう・・・と思いましたもの。
まだ暖かいし、ただ寝てるだけじゃないか、というくらいに、亡くなっている顏とは思えなかったのです。
しかし、私自身が到着して部屋へ移動する間に頸動脈が触れないことを確認していましたので、信じられないけれど信じるしかないと思いました。

奥さんにしたら、あっという間の出来事です。
こんなに何度も何度も呼び出されては病院に来ていたのに、なぜ今回に限って間に合わず、亡くなってしまったのでしょう。

不謹慎かもしれませんが、いい逝き方をしたんじゃないかなあって思ったんですね。
Sさんは当日まで経口摂取をしていましたが、むせもひどく、もうそろそろ胃瘻を検討しなくてはいけない時期に来ていました。
寝たきりとは言っても、Sさんは自分で口もあけられるし、健側の手でスプーンを持つこともできるし、会話もできるんです。
それなのに、経管栄養では辛いと思います。

挿管して呼吸器につながれて、胸骨圧迫をして・・・そんなことをされるより、窒息というのは短時間で死に至るが故に、苦しんだ時間も短く済んだのではないかって。
最期まで食事も摂れて、そのまま逝くことができたのです。

ある日突然、「窒息で亡くなった」と言われる家族は辛いかもしれませんが、Sさんはある意味自然に逝ったように思ったのでした。



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